コードアワード 2016 審査員講評

「コードアワード2016」審査員長
佐藤カズー
株式会社TBWA\HAKUHODO
チーフ クリエイティブ オフィサー
審査員長を引き受けるにあたり、コードアワードをこうしたいという強い思いがありました。
それはアワードのグローバル化です。閉じたドメスティック視点の広告賞から、もっと世界に通用するアイデアを競う広告賞にシフトすること。それが結果として、日本のクリエイティブの底上げになると考えたからです。
デジタルネイティブ世代の若い皆さんと話していると、いかに僕らがデジタルを特別なものと思い込んでしまっているかが痛いほどわかります。彼らにとってデジタルは当たり前。世界中から情報を得るのも当たり前。そんなジェネレーションの変化の波が押し寄せる中、アワードの審査にグローバル視点を入れないのはおかしいんじゃないかと。
当然、審査会の空気もかなりグローバル。予定されていた終了時間も大幅にオーバーしながら、これまでにない議論のデッドヒートが繰り広げられました。既視感のあるアイデア、クリエイティブアプローチが似ているものが過去に存在する、そういったものは全て否定されました。しかも英語で(笑)。
そんな審査の流れもあり、本年のグランプリは“なし”という結論に至りました。世界のレベルで見たときにグランプリって言える作品があるのか? 簡単に言うと、それが理由です。グランプリを出さないとアワードが盛り上がらないのではないか? 毎年出してきたのになぜ? 様々な反対意見もあるかとは思いますが、僕はそれで良かったと思っています。きっと来年世界に自慢できるグランプリが生まれるはずだから。
今年は、中国やタイからもエントリーがありました。来年はもっと世界から作品が集まって欲しい、より国際的に開かれた広告賞に育っていって欲しい、そう強く思います。厳しい審査をくぐり抜けた受賞企業、および受賞者のみなさま、本当におめでとうございます!

伊藤 直樹
PARTY
クリエイティブディレクター
コードアワードのホームページを見ると、企業のマーケティング・コミュニケーション全般をほめる賞である、と書かれています。広告とは企業のいわゆるマーコムのひとつのやり方で、いまマーコムは、プロダクトやリテールのなかに溶け込もうとしています。IoT、人口知能などを活用したチャットベースEC、スタバのアプリが代表するようなスマホとリテールが融合したような体験の提供などが、マーコムのこれからの姿。広告で培った企業や広告代理店の「コミュニケーションをつくる」というノウハウを活かす場所が確実に変わっていく。たとえば、自動運転になってインターネットとつながったクルマはもはやメディアビークルであり、チーム「マーコム」のクリエイティビティを発揮する場所だと思います。コードアワードはそんなマーコムの未来を応援する賞であり続けて欲しいと思いますし、そうなれると信じています。

キリーロバ・ナージャ
株式会社電通
電通総研Bチーム
クリエーティブ/コピーライター
受賞者のみなさま、おめでとうございます!でも、ちょっとだけ厳しいことを言うと、今年はあまり元気がないように思いました。 たまたまそういう年だったかもしれないけど、世の中もシフトしていると感じます。ただ、面白い!とか、テクノロジーがすごい!とか、話題になった!とかそういうことを超えて、「広告」は人のために、世の中のために何ができるのか。そのアイディアやテクノロジーは何を可能にしたのか。 「For Good」の文脈ということではなく、世界ではもう当たり前にそこが問われる。 カテゴリーに分けるとなかなか難しいところもあるけど私はなるべくそこを見ていました。元気がない年の次はブレークスルーがある。来年に期待ですね!

ジョン・メリーフィールド
Google Inc.
チーフ・クリエイティブ・オフィサー
グーグル・アジアパシフィック
この度はコードアワード2016の審査員に選出頂き、大変光栄に存じます。審査員として呼ばれた方々の才能の豊かさには、大きな感銘を受けました。一方で、提出された作品に対しては残念ながら同じことが言えません。突出したレベルの作品がいくつかありましたが、多くはそうではありませんでした。正直に申し上げますと、選考基準を緩和せざるを得なかったという印象です。多くの作品は、アイディアが乏しく「技術アピール」に終始していました。重要なのは技術ではなく、素晴らしいアイディアです。

田中 里沙
株式会社宣伝会議
事業構想大学院大学学長 / 宣伝会議取締役メディア
情報統括
デジタル×クリエイティブ×マーケティングを駆使した新しい表現や仕組みに出会えるコードアワードは、年々変化をしています。企画の背景から成果までを丁寧に見て議論を尽くす審査会は、コミュニケーションの未来や理想を感じる時間でもあります。今年の受賞作に代表される新鮮な企画の根底には、旅行をもっと楽しくしたい、家族の気持ちをつなげたい、老舗が育んできた技術と伝統を伝えたい、毎日休まず新聞を届け続ける思いを形にしたい・・・といった、日常の営みと温かな人の心が流れていました。デジタルな体験においては、対象者と気持ちが通じ合う瞬間が得られますが、それは限定的でもあります。カッコよくてユニークで、皆を夢中にさせたコミュニケーションを深く知ることができました。

築地 Roy 良
株式会社BIRDMAN
代表 / クリエイティブディレクター
コードアワードの審査に初めて参加させていただきました。審査会では大幅に時間をオーバーしながらも審査員全員がそれぞれの視点で作品を評価し、議論を交わしました。特に審査員にGoogleのジョンさんが参加されたことで、作品を世界的なクオリティーの視点で見ることができ、さらに白熱した議論をすることが出来たと思います。その結果今回は「グランプリ」に該当するものは無し、という結果になりました。これは実際に審査員全員が「これはグランプリだ!」と思うずば抜けた作品が無かったこともそうですが、コードアワードを国際的な賞として1つレベルを上げたいというメッセージも込められています。コードアワードを獲る、ということが日本はもちろん、国際的にも名誉な賞になるようになれば良いなと。個人的にはインタラクティブ制作会社の代表という視点で、その作品のアイディアが新しいのか、効果的なのかに加えて、どれだけ(自分たちの仕事じゃないのが)悔しかったのか、というのが評価基準でした。今年はなかったグランプリが、来年は決めるのが困難な位沢山のグランプリ候補が出そろう事を期待しています!

橋田 和明
株式会社博報堂ケトル
クリエイティブディレクター
「デジタルエクスペリエンス」を評価するコードアワード。審査を通じて、ただのデジタルではなく、デジタルエクスペリエンスという意味で見れば、クリエイティビティの世界はもっと広がるということを感じた。しかし、グランプリに値するものはない。今年の審査員の結論はそうなった。様々なバックグラウンドをもつ、ダイバーシティあふれる審査員を一気に動かす作品がなかったのだろう。しかし、個人的には、ベストに選ばれた『G・U・M PLAY』に注目してほしい。歯磨きという毎日の行動をインタラクティブなエンターテイメントに転換した。しかもこれはプロトタイプではなく、プロダクトである。キャンペーンではない。メーカーではないプレイヤーがコミュニケーションやアートを超えて、プロダクトにコミットできる。理論ではたくさん聞くが、それを実現したものだ。デジタルエクスペリエンスを創れるプレイヤーが、さらに領域を広げるきっかけになってほしい。

深津 貴之
株式会社THE GUILD
インタラクティブデザイナー / ファウンダー
コードアワードで評価されるべきクラフト作品は何か? そもそも何が評価すべきクラフトなのか?今回もっとも紛糾したのはクラフト部門だったかもしれません。圧倒的な規模感と作り込みの作品、スマホの特性や縦長の画面を生かした作品、お馬鹿なアイディアにものすごいエネルギーとテクノロジーを注ぎ込んだ作品。表層は違えど根源としてはどの作品も、丁寧な作り込みが行われていました。クラフト部門も他の例に漏れず、二転三転、喧々諤々の審査でした。今回は残念ながらグランプリ不在ですが、それも「本当に良いもの」を見定めようとした結果の苦しい決断です。

坊垣 佳奈
株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディング
取締役
初めて審査員を務めさせていただきました。ビジコンなどの審査は多数経験がありましたがデジタルマーケティングの審査となると初めてのことで、その難しさを痛感する機会となりました。「広告」という領域は全くの専門外であり、ありがたくも恐縮な気持ちでの参加でしたが、しかし、だからこそ、外からの視点で、クラウドファンディングという枠組みの中ではありますが広く「新しく革新的なもの」に日々触れている、かつ消費者のシビアな判断を目の当たりにしている経験から、何がどう新しいのか、それは消費者にどう受け入れられたのか、プロダクト・サービスがそもそも持つ魅力をどう表現しているのかといった点を中心に、できるだけ客観的にフラットに審査をさせていただきました。最終審査に残ったものはどれも素晴らしい作品でしたが、正直なところ、新しさという意味では、データ活用・テクノロジーの活用など含めて、もう少しチャレンジングな作品を見たかったな、という想いです。この世界にも、ものづくりの世界と同じような固定概念の壁や日本の組織が持つ課題が見え隠れしている気がして、勉強をさせていただきました。素晴らしい機会をありがとうございました。
(審査員長以下、五十音順)