コードアワード 2015 審査員講評

「コードアワード2015」審査員長

伊藤 直樹

PARTY
クリエイティブディレクター

いい議論には、ルールが必要だ。審査員委員長に役割があるとしたら、そのルールを提示し、議論のあいだに立って公平さを保ち、さらに議論を促進することだ。世界に賞は数多くあれど、大概アメリカの賞がいちばんルールが明確だ。すべては議論が活性化するため。ただ声が大きい奴が勝ってはいけない。ロビー活動ならぬトイレ休憩活動もあってはならない。今回のルールは、情報を確認しあって私見禁止でまず投票。点数リストで上位が見えてきたら自由に議論。私見大歓迎。下位からの大逆転も大アリ。議論と応援演説のあとは投票し多数決で決める。世の中の話題性を重視する者。作り手としてのクラフトマンシップを重んじる者。マーケティングの作戦を評価する者。個性がぶつかり火花を散らす。だから各自の考えも二転三転。他人の意見を聞いて翻意するのだ。これがネットでポチポチ投票するだけではない集まって審査をする意味だ。だから自信を持って言える。これが我々の本音。話し合いの本当の結果だ。受賞者のみなさま、おめでとうございます!

石黒 不二代

ネットイヤーグループ株式会社
代表取締役社長 兼 CEO

コードアワードの審査を務めるのは今年が初めてです。ファイナリストに残った作品は質が高いものが多く、それゆえ議論が紛糾しました。コードアワードは、マーケティングとクリエイティブの両面を評価します。審査で、その二つを突き詰めると、仕事の本質にたどりつきます。例えば、イフェクトにおける成果とは何か?という問いかけに対して、審査基準には、シェアやイベント参加者という言葉も出てきますが、私はブランド価値の向上や売上げなど企業価値の向上に貢献しなければ意味はないという観点で評価をしました。イノベーションは、新たなビジネスモデルやサービスの付加価値を創造できるか、です。マーケティングとクリエイティブは、まさに、日本の企業が直面している問題解決の根幹になっていると感じました。

岸 勇希

株式会社電通
CDC
エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター

たくさんのエントリーありがとうございました。審査は評価軸(クライテリア)の規定次第でかなり順位が激しく入れ替わる状況でした。クラフトと言っても、何を指してクラフトと規定するのか?例えば、コードアワードにおいて映像演出はクラフトとして評価すべきか?いや、よりテクノジーのクラフトを評価すべきではないのか?また同様に、革新と言っても何の革新なのか?効果といっても、何をもって効果とするのか?などなど議論が紛糾しました。結果的には順位がついてしまいましたが、ある意味最終選考に残った仕事はいずれも、評価できる部分、凄みはあったと思います。個人的にはグランプリ作品にはあまりピンときていません。かと言って「これしかない!」と言えるほど圧倒的なものもなかったように思っています。審査って嫌ですね。自分の仕事は棚に上げて、偉そうに「圧倒的なものはなかった。」とか。ありがとうございました。

佐藤 カズー

TBWA\HAKUHODO
エグゼクティブクリエイティブディレクター

世界の先進国においてのデジタル体験を通じたクリエイティブワークは、もはや特別なことではなく、マーケティングにおいてはメインストリームだ。”予算が数百万余ったのでなんか面白いこと考えてよ”の時代から、今や大きな予算を使ってマーケティング課題を解決するためのメインウエポンになってきている。今回の審査を通じて出会った作品群にはその両方の作品が混在し、日本はちょうど過渡期なのではと感じた。一方で、もっと未来を見据えた実験的なクリエイティブワークに出会えなかったのは少し残念だった。ワンオフの体験コンテンツでなく、リアルで実利のあるデジタルサービス、プロトタイプでもいいのでイノベーションアイデアをもっと見たいと思いました。来年に期待したいと思います。

杉山 知之

デジタルハリウッド大学
学長 / 工学博士

モバイル広告というカテゴリーをはるかに超えた世界が現れたことに素早く反応してコードアワードとして再出発して2年目、ますます多様となる応募作品を目の前に審査員達の議論は、ときに自己矛盾も含みながら白熱した。ひとりのコンシューマーとして感じること、デジタルの作り手として感じること、またはデジタルコミュニケーションの高度な応用が始まった社会の中の位置づけとして感じること、それぞれが異なるからである。結果としてスマートフォンから飛び出して、コンピュータによって制御される何かが、新たなエクスペリエンスを産んでいる作品の評価が高くなっていた。リアルワールドからヴァーチャルワールドに至るまで境界線無しに広がる新たなマーケティングの世界が始まったと実感できた今回のコードアワードであった。個人的には、トレンドの動きを、つぶやきとグラフィックが浮かぶ情報空間の中を走る体感型ジェットコースターとして表現した「トレンドコースター」にもっとも魅力を感じた。また選外となったが、アイトラッキング内蔵のHMDであるFOVEを利用した「Eye Play the Piano」に発展の余地を感じた。

田中 里沙

株式会社宣伝会議
取締役副社長 兼 編集室長

コードアワードには、デジタルマーケティングの最先端が集まる。最先端とは、最も新しい部分だけに、向かう方向も状態も一様ではない。判断基準が難しく、審査は難航した。日本の下着メーカー・べリグリは、ファッションをエモーショナルな存在にし、寺田倉庫のミニクラは、趣のない商品を、意味のあるサービスに転化させた。フリー素材アイドルMIKA★RIKAは、新人デビューの流れを大きく変えた。「できたらいいな」を実現するためのデジタルではなく、世の中にまだ存在しないものや仕組みを創り出す一流の力が入賞作に揃ったと思う。沖縄への欧米を中心とした外国人観光客誘致は、対象者の視点にフィットし、トヨタの「しずかったー」はブランドコミュニケーションの世界観を昇華させつつ親しみのもてる企画だ。新たな価値を創造する広告の真骨頂が、コードアワードに凝縮されていた。

深津 貴之

THE GUILD
インタラクティブデザイナー / ファウンダー

はじめての参加させていただきました。審査では単純な作品の良し悪しだけでなく、そもそもエフェクティブとは何か?クラフトとは何か?といった、賞そのものの根元を問う議論が多く交わされたのが印象的でした。エントリー作品も王道的なプロモ映像や流行のIoTから、ゲリラ的なフリー素材アイドルまで実に多彩。「コードアワードならでは」という切り口で、一見すると賞をとれそうな作品が落とされたり、予想外のものがランクインしたりと波乱に富んだ審査でした。
個人的に特に興味深かったのは、「MEET METRO」。地下鉄、駅伝、スマホの3つを必然性を持った形で組み合わせ、答えのない問題に取り組んだのが素晴らしかった。もしもベストアプリアイデア部門があったらば、大賞に推したいところ。「the way down」などもそうですが、今後も「スマホならでは!」という必然性を持った、新しい提案に期待したいです。

(審査員長以下、五十音順)